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付き合い方・向き合い方ガイドブック職場での
コミュニケーション

当事者と周囲 それぞれが自分らしく
気持ちよく働くために

大人になり就職すると、多くの人が日々の大半を仕事に充てることになります。発達障害のある人も周囲の人も、職場の全員が自分らしく気持ちよく働くためのコミュニケーションに関するヒントを紹介します。

職場でよくあるコミュニケーションの課題

発達障害のある人と周囲の人が同じ職場で働いているとき、コミュニケーションにおいてはどのような課題があるのでしょうか?
当事者が発達障害の診断や傾向、特性について周囲の人に話しているかどうか、雇用形態(一般雇用/障害者雇用)、お互いの関係性(上司/同僚/部下など)により状況はさまざまですが、ここではよく見られるコミュニケーション上の困りごとについて挙げてみます。

当事者目線でのコミュニケーション上の困りごと

  • 依頼されたことに対して自分なりにやってみたところ、「頼んだことと違う」と言われ一方的に怒られてしまったが、原因がよく分からない。
  • とある人から一方的に嫌われているように感じてしまい、その人とうまくコミュニケーションが取れなくなってしまう 。
  • 指示があいまいで分かりづらく、求められていることがわかららない。
  • 一度に多くの指示を受けると、全てを理解し覚えることができず、なにをすればよいのか分からなくなってしまう。

周囲の人目線でのコミュニケーション上の困りごと

  • 依頼したことに本人なりの解釈やこだわりが入ってしまい、頼んだことと違う成果物を提出された。
  • ミスが発生したときに、原因や特性について考えず頭ごなしに否定してしまった。
  • 伝えたつもりだったが伝わっていなかった。
    「伝える」と「伝わる」は異なることや、「同じ景色を見ているだろう」と決めつけず同じ視点から話すことを心がけなければならなかった。
  • 丁寧な説明を心がけるあまり、一度にたくさん話しすぎてしまい、ほとんど相手に伝わっていなかった。

このように、コミュニケーション上での“食い違い”や“思い込み”などはよく見られるようです。

解決のための考え方・視点

では、前述したようなコミュニケーション上の課題を解決するために、まずはどのような考え方・視点を持てばよいのでしょうか。

発達特性による“苦手”は、当事者の能力の欠如から起こるものではありません。周囲の人から苦手なことをただ指摘されただけでは、当事者は傷ついてしまいます。
「自分の特性から苦手なことがあるけれど、カバーできるようにサポートしてほしい」
「たまたまあなたはこれが苦手だけれど、うまくいく方法を一緒に考えて、苦手をカバーしてみよう」
というように、苦手なことを認めた上でそれぞれが補いあう考え方を持つとよいのではないでしょうか。

また、苦手なことへの対応と同時に“得意”に目を向けることも大切です。周囲の人が当事者の得意なことを見つけたときには、声に出して伝えることで「誰かに必要とされている」というポジティブな気持ちが湧きあがり、良好なコミュニケーションが促進されるのではないでしょうか。

このような“得意“と”苦手“は、発達障害の有無にかかわらずすべての人に存在します。まずは、当事者と周囲の人で「得意と苦手を認め合いながら一緒に働く」という考え方・視点を共有するとよいでしょう。

自分のトリセツを作ってみよう

発達障害のある人が、同じ職場の人にあらかじめ自身の特性や傾向、そこからくる得意・不得意を伝えておくと、その人に合った配慮やいいコミュニケーションにつながる可能性が高くなります。ただ、自分はどんな人間なのか、とっさに説明することは難しいかもしれません。
そこで一度、自分自身を振り返り、どんな特性があるのか、性格や得意・不得意などを言語化してみると相手に伝えやすくなります。

ここでは、自分を言語化して表すためのサンプルを紹介します。発達障害の診断有無に関わらず、誰にでも得意・不得意や若干の特性は存在します。発達障害のある人だけでなく、そうでない人にもさまざまな状況で活用できますので、「自分のトリセツ」(取扱説明書)を作るような感覚で、一度試してみてはいかがでしょうか。

<自分のトリセツ 活用方法>

まずは自分のことを書ける範囲で書いてみましょう。全ての項目を無理に埋める必要はありませんし、人に伝えたくないことは書かなくても大丈夫です。

上司や特定の人に伝える場合

書いた内容を使って、自分のことを説明してみましょう。ただ資料を渡すだけよりも、口頭で補足しながら伝えた方がより細かいニュアンスまで伝わりやすくなります。

チームなど複数の人に伝える場合

ひとりだけがトリセツを作って話すよりも、その場の全員がトリセツを作って持ち寄り、お互いのことを共有しあうような感覚で活用するのもおすすめです。意外な一面を知ることができ、お互いの理解が深まるかもしれません。

注意すること

トリセツに書かれた内容は、本人にとって大切な価値観であり個人情報ともいえます。どこ(誰)まで共有してよいか、あらかじめ決めておきましょう。共有された内容について否定したり、安易にアドバイスしたりしないよう気をつけましょう。

<自分のトリセツ サンプル>

自分のトリセツ
セールスポイント 苦手なこと 自分で
対処していること
皆さんに
配慮してほしいこと
数字など細かいチェックは得意です。

誰とでも仲良く話せて、場を和ませることが得意です。

仕事のミスで注意されても、凹まず頑張れます。
一度に複数の仕事を頼まれると、優先順位が分からなくなります。 ←自分から優先順位を聞くようにしています。 ←できれば、ひとつずつ指示していただけると助かります。
集中しすぎて、休憩を取るのを忘れてしまいます ←タイマーを使って時間を管理するようにしています。 ←休憩を取っていなかったり、疲れていたりしたら声をかけてもらえると助かります。
怒ったような顔や声は怖く感じて固まってしまうことがあります。 ←忘れようとしたり、違う捉え方をするように心がけています。 ←しんどくなったときは少しひとりになる時間をいただけると助かります。

このサンプルは、障害者職業総合センターの「ナビゲーションブック」を参考にエルアイ武田が活用しているものです。「ナビゲーションブック」について詳しくは以下のWebサイトをご覧ください。
障害者職業総合センター 「支援マニュアルNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム
ナビゲーションブックの作成と活用」https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/support13.html

うまくいった事例集

職場でのコミュニケ―ションで参考にしてもらえる事例をいくつかご紹介します。

  • 依頼や指示は、できるだけ具体的に伝える。
    たとえば「急いで作業してね」ではなく、「●日の●時までに仕上げてね」と伝える。
  • 業務を依頼するときに、依頼した内容と受け取った内容に食い違いが生じた場合は、その都度「どのタイミングでどのような食い違いが生じたのか」を両者で振り返り、同じことが再発しないようにする。
  • 得意なことに自分では気づいていないこともあるので、うまくいったときにはしっかり褒めて、自信をもってもらう。
  • 仕事の成果に対して改善を求めるときには、「ここまではよくできている。一方でこの部分にはさらにチャレンジをしてみよう」というように、できている部分をしっかり褒めた上で改善点を指摘するとよい。

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監修:株式会社エルアイ武田

株式会社エルアイ武田

1995年に武田薬品工業株式会社の特例子会社として、薬業界では初めて、障害者雇用を目的に設立された会社です。聴覚及び知的障害の社員でスタートし、現在では精神・発達障害の方も増えて、多くの社員が「働きたい!」「社会参加したい!」という意欲を持って元気に働いています

退職した社員による作品

本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。