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大人の発達障害を知る発達障害の
グレーゾーン
とは

定義や対処法を解説

発達障害に関して「グレーゾーン」という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
「グレーゾーン」とはどういった状態なのか、特徴や困りごと、対処法などを解説します。

更新日:2024年2月28日

発達障害の「グレーゾーン」とはどういう意味?

近年、発達障害に関して「グレーゾーン」という言葉が広く使われるようになりました。
この「グレーゾーン」とは、発達障害の特性があり、診断基準であてはまる項目があるものの確定診断には至らない、発達障害の傾向があるという状態をあらわす言葉です。正式な診断名・疾患名ではなく、状態をあらわす概念、ととらえてください。

グレーゾーンにおける特性の程度は軽度であるものの、特性の種類や周囲の環境によりさまざまな困りごと・生きづらさが生じているケースもあります。また、グレーゾーンでは、診断されていることが必要な支援や相談先が活用できなかったり、「発達障害がある」とはっきり言えないことで周囲の理解を得にくかったりするなど、特有の悩みを抱える人も少なくありません。

グレーゾーンのイメージ図

グレーゾーンのイメージ図

いわゆる定型発達(発達障害を伴わない人)、グレーゾーン、発達障害の間には、明確な線引きをすることは難しく、困りごとや生きづらさは環境によって変化するのに加え、診断そのものについても状況によって結果が異なることがあります。

大人の発達障害の特徴と困りごと

グレーゾーンについて詳しく解説する前に、まずは発達障害とその種類、特性について紹介します。

そもそも発達障害とは、生まれつき持っている脳の性質や働き方、その後の発達の仕方に偏りがあることで起こる言語や行動、情緒などの特性のことで、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD/SLD(学習障害/限局性学習症)の大きく3つのタイプがあります。

発達障害の主な種類と特性

発達障害の主な種類と特性 自閉スペクトラム症(ASD)・興味のあることに関心が集中する・こだわりが強い・対人関係や社会的コミュニケーションに困難がある 注意欠如・多動症(ADHD)・忘れ物や失くし物が多い・気が散りやすい・集中できない・うっかりして同じ間違いを繰り返す 学習障害/限局性学習症(LD/SLD)・全般的な知的発達には遅れがない・読み・書き・計算が苦手

ADHD(注意欠如・多動症)の特徴

ADHDには、注意し続けることができず作業にミスを生じやすい(不注意)、落ち着きがない・待つことができない(多動性・衝動性)などの特性があります。そのため、遅刻や忘れ物が多い、計画を立てるのが苦手、思い付きでの言動をするなどの行動が見受けられます。
大人になるにつれて多動性・衝動性の程度は目立たなくなる傾向があるものの、不注意の特性は大人になってもあらわれやすく、中には大学進学や就職という環境の変化がきっかけでさまざまな支障が生じADHDに気づくこともあります。

ASD(自閉スペクトラム症)の特徴

ASDには、人とのコミュニケーションにおいて、言葉や視線、表情や身振りなどによるやりとりが苦手だったり、自分の気持ちを伝えることや、相手の気持ちを読み取ることが難しかったりするといった特性があります。また、特定のことに強いこだわりを持っていたり、感覚の過敏さを持ち合わせていたりする場合もあります。
大人になると、日常生活や職場で臨機応変な対応や周囲の状況に合わせた言動が求められる頻度が高くなり、それにうまく対応できないことで困りごとや生きづらさを抱えることがあります。

LD/SLD(学習障害/限局性学習症)
の特徴

LD/SLDには、知的障害とは異なり全般的な知能の遅れはなく、読む・書く・計算するといった特定の学習行為において支障が認められるという特性があります。
LD/SLDは知的障害とは異なるため、子どものころは単に「勉強不足」や「努力が足りない」などといわれ見過ごされてしまうこともあります。また、大人になってからLD/SLDの特性があることがわかる人もいます。

これらの発達障害の種類や特性のあらわれ方・程度には個人差があります。多くの場合、それぞれの特性は子どものころからあらわれ周囲が気づくことが多いものの、大人になってから環境の変化に伴い特性による困りごとが表面化し気づくこともあります。

グレーゾーンと言われたら?理由と対処方法について

既に述べたように、グレーゾーンで特性の程度が軽度であっても、困りごとや問題がないとは一概には言えません。診断基準は満たさないものの、特性とそれによる困りごとが存在する人もいます。状況によっては、診断の有無に関わらず、発達障害における対処法が役立つことがあります。

特性があるのになぜ診断がつかないのか

そもそも、発達障害の特性とそれによる困りごとがあるのになぜ診断されないのでしょうか?

発達障害の診断は医療機関で行われます。診断の流れは、医師が問診でこれまでの生活や困りごとなどを本人・家族から聞き取り、心理検査などと合わせて診断ガイドラインの基準に沿って検討し、発達障害と診断されるかどうか総合的に判断する、というものです。正しい診断のためには、精神科や心療内科など、発達障害を専門とする医師に判断してもらうことが大切です。

しかし、発達障害の特性はとても多様です。また、定型発達の人でも発達障害の特性を多かれ少なかれ持っており、特性の有無で2分するのではなくスペクトラム(連続体)と表現されることもあり、その診断には「明確な線引き」をつけにくいところがあります。発達障害の特性がいくつか認められるものの、重症度が診断ガイドラインの基準を満たさない場合や、その人が置かれた状況や環境により困りごとや日常生活での支障の程度が変動することなどから、確定的な診断に至らないこともあります。
また、発達障害に似ている困りごとが、他の精神疾患などで引き起こされることがあります。その場合には、発達障害とは別の対処が必要となることがあります。

特性への対処法を身につけるには

ここでは、自分でできる対処法をいくつか紹介します。

日常生活での対処法

片付けができない、部屋が散らかっている
持ち物を減らしたり、物の置き場所を決めておく
「出したら仕舞う」を行い、新しい行動はその後にするよう心がける
1日に1ヵ所だけでも片付ける
忘れ物や遅刻が多い
付箋やメモ、To Doアプリ、リマインダーを活用してやらなければならないことや持ち物を管理する
時計を目につくところに置く、目覚ましを複数回設定する

仕事上の対処法

事務作業が苦手
苦手な作業はあらかじめ上司や周囲に伝えておく
作業をリストアップし、ひとつずつこなしていく
仕事のマネジメントを同僚や上司にも手伝ってもらうなど、サポートも依頼する
仕事が長続きしない、転職を繰り返してしまう
仕事内容や職場環境が自分の特性に合っているか考えてみる
可能であればグレーゾーンであることについて上司などに伝え、特性への理解や環境調整を依頼する

人間関係・コミュニケーションでの対処法

人とのコミュニケーションが苦手である
多くの人と関わらなければならない環境は極力避ける
無理に話さなくてもよいので、聞き役に回る
チャットやメールを活用し、文字でのコミュニケーションをはかる
思ったことを口に出してしまう、衝動的に行動してしまう
言動を起こす前に一呼吸おく、誤解を生まないよう丁寧に話す

グレーゾーンについて相談するには

特性による困りごとや生きづらさには、ひとりで解決できないことも多くあります。また、特性による困りごとだと思っていたことが、実は他の精神疾患などで引き起こされたものだった、ということもあるかもしれません。そんなとき、自分ひとりで考えて結論を出さず、専門医へ相談してみるとよいでしょう。

「自分は発達障害と診断されるのかグレーゾーンなのか分からない」 「発達障害の特性に心当たりがあり、困りごとで悩んでいる」 など、迷っている方は一度、専門の医療機関を受診してみてはいかがでしょうか?
ひとりで悩まず相談することで、自身の特性への理解が深まるとともに、困りごとや生きづらさが和らぐかもしれません。

セルフチェックも参考に

発達障害の傾向があるかどうか気になる人は、一度セルフチェックをしてみませんか。本サイトでは、ADHDとASDの成人向けセルフチェックを掲載しています。
セルフチェックは診断とは異なりあくまでも目安ではありますが、ご自身が発達障害かもしれないと感じている人や医療機関を受診するかどうか迷っている人には、傾向を知るだけでも気持ちが軽くなるかもしれません。

セルフチェックはこちらから

セルフチェック

※あくまで簡易的なセルフチェックですので、正確な診断には専門医のいる医療機関の受診が必要です。

監修:昭和大学 発達障害医療研究所 所長
(准教授) 太田晴久先生

本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。