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カサンドラ症候群
とは

特徴や症状、対処法と相談先について紹介

カサンドラ症候群という言葉を聞いたことはありますか?
ここでは、カサンドラ症候群とはなにか、発達障害との関連やカサンドラ症候群との向き合い方、対処法、相談先などについて紹介していきます。

更新日:2024年2月28日

「カサンドラ症候群」とは?

「カサンドラ症候群」とは、ASD(自閉スペクトラム症)のあるパートナーや身近な人が、ASD当事者と良好なコミュニケーション・人間関係性を築くことができず、その精神的ストレスから心身にさまざまな症状が出ている状態をあらわす言葉です。2000年代から広く使われるようになりましたが、正式な疾患名ではありません。

カサンドラ症候群の特徴

ASDには、他者とのコミュニケーション・社会性の難しさという特性があります。そのため、パートナーや身近な人がASDのある人と生活を共にしたりサポートしたりする際に、コミュニケーション上の苦しみや困りごとが生じやすく、パートナーや身近な人の精神的ストレスが蓄積されていきます。しかし、その苦しみやストレスが当事者や周囲の人に理解されないケースも多く、孤立することでより症状が悪化してしまいます。

イメージ:カサンドラ症候群の特徴

カサンドラ症候群はASDのある夫とその妻という関係性で多く見受けられますが、家族全般や職場の同僚など、身近な人であれば性別・関係性問わず起こる可能性があります。

豆知識:カサンドラは古代ギリシャ神話が語源

カサンドラ(カッサンドラ、カッサンドラー)はギリシャ神話に登場するトロイの王女の名前です。太陽神アポロンはカサンドラを愛し予言能力を授けました。しかしカサンドラはアポロンからの求愛を拒んだため、怒ったアポロンは「予言を誰も信じない」という罰を与えました。そのため、カサンドラの予言がたとえ正しくても周囲から「嘘つき」呼ばわりされるようになった……という悲しいお話と、ASDのある人とのコミュニケーションから陥る精神的ストレスに共通点があることが「カサンドラ症候群」という名称の由来です。

カサンドラの状態であらわれる疾患や症状

カサンドラの状態では、強い精神的ストレスからうつ病や不安障害などといった精神疾患を抱えてしまうことがあります。それらの疾患によるさまざまな症状が出現し、日常生活に支障をきたす場合もあります。

以下のような症状がある場合にはなんらかの精神疾患が背景に潜んでいるかもしれません。早めに専門医を受診しましょう。

  • 身体症状の一例
    頭痛・片頭痛、不眠、動悸、めまい、体重増加または減少、肩こり、疲労感、倦怠感 など
  • 精神症状の一例
    抑うつ状態、不安、パニック、無気力感、罪悪感、孤独感、自己肯定感の低下や自己否定 など

カサンドラの状態になる原因

ASDの特性として、人とのコミュニケーション・社会性の難しさやこだわりの強さ、柔軟で臨機応変な対応ができない、などがあります。そのため、自分の気持ちを伝えたり相手の気持ちを読み取ったり、その場に合った発言・対応ができず相手を傷つけてしまったり、自身のこだわりやルールを最優先して周囲にもそれを強要してしまったりすることなどがあります。

適度な距離感のある関係性であれば問題が生じても深刻にはならないかもしれませんが、家庭や職場で一緒に過ごす時間が長ければ、度重なる気遣いやサポートによりパートナーや身近な人が感じる精神的苦痛は増大していきます。“一見、周囲からは良好な関係であるように見えても、当人同士には複雑な問題が存在する”ということはよくあり、カサンドラ症候群の状態を周囲の人に理解してもらえず、ひとりで問題を抱え込み孤立してしまう状況もよく起こりえます。
中には、ASDのある人と正面から向き合い、できる限りのサポートをしようとする一方で、当事者とのコミュニケーションに支障があるのは自分のせいだと考えてしまうなど、よりストレスが溜まってしまうという状況もみられます。

また、職場と家庭ではコミュニケーションの質が異なるため、ASDの当事者にとっても職場ではなんとか対応できていても家庭ではうまくコミュニケーションがとれないという場合もあるかもしれません。

このように、カサンドラ症候群の主な原因として、「ASD当事者と身近な人とのコミュニケーションにおける問題」 「家族や身近な人の精神的ストレスが周囲に理解されず、ときには孤立した状態になる」ということが挙げられます。

ASDについて詳しくはこちら

自閉スペクトラム症(ASD)とは

カサンドラ症候群の対処方法

カサンドラ症候群への対処方法として、2つの考え方があります。カサンドラ状態で引き起こされた精神疾患による症状への対処と、当事者との関係性・関わり方を改善して根本的な課題を解決する方法です。

症状への対処療法

医療機関を受診し、それぞれが抱える精神疾患の症状に応じた治療を受けることで、症状を改善・和らげることができる場合もあります。精神科や心療内科が主な診療科であり、問診を経て適切なカウンセリングまたは認知行動療法、薬物療法などが行われます。

根本的な課題を解決する方法

カサンドラ症候群の大きな原因は、ASD当事者との関係性にあります。そのため、根本的に解決するためには、ASD当事者とパートナー・身近な人との関係性・コミュニケーションを見直し、改善する必要があります。そのためには、まずはASDの特性を理解し、相手の得意・不得意やコミュニケーションの傾向などを改めて考えてみることが大切です。ASDは生まれついた脳の特性ですので、人格や愛情によりコミュニケーション問題をきたしているわけではないということも知っておくべきでしょう。その上で、相手に対し困っていることや苦しんでいる状況を伝え、どうすればお互いが気持ちよく過ごせるのか、コミュニケーションの取り方や望ましい環境・生活スタイルなどについて話し合ってみましょう。また、信頼できる第三者にも相談するなど、孤立しない状況をつくることも大切です。
ただ、関係者だけで解決することが難しい場合や、そもそもどうすればよいか分からないという場合も多いでしょう。そんなときは、精神科や心療内科などといった医療機関への相談や、夫婦カウンセリングという選択肢もあります。

中には、当事者にASDの特性があるものの診断に至らない、いわゆる“グレーゾーン”である場合や、そもそも自身の特性に気づいておらず当事者には困りごとがないという場合もあります。このようなときにASDの診断を強要したり、ASDであるという前提で一緒に精神科など受診したりすると、当事者が思いもよらず傷ついたり、かえって関係性が悪化する可能性もありますので注意しましょう。
本サイトでは、ASDのセルフチェックや発達障害のある人との接し方に関する記事も掲載していますので、必要に応じてご活用ください。

ASDのセルフチェックはこちら

ASDセルフチェック

発達障害のある人との接し方はこちら

どう接し、どう伝えるか、
行動のヒント

ひとりで抱え込まず、まずは相談を

繰り返しになりますが、カサンドラ症候群では「苦しさが周囲に理解されず、孤立した状態である」ことが原因のひとつです。ですから、ひとりで抱え込まずに誰かに相談し、孤立状態を解消していくことが大切です。
また、夫婦間などのコミュニケーションがうまくいかない原因にはカサンドラ症候群以外の要因も多くあります。今抱えているつらさがカサンドラ症候群によるものなのか分からずひとりで悩んでいるのであれば、まずは専門医のいる医療機関や民間の相談機関に相談してみてはいかがでしょうか。ASD当事者と一緒に訪れることが難しそうであれば、まずはひとりで相談しに行くこともできます。また、地域によってはカサンドラ症候群に悩む人たちで構成される自助グループやイベントなどもありますので、解決の糸口を見つけるきっかけとして参加してみるのもよいかもしれません。

周囲の人が相談できる専門家や利用できる支援・サービスについてはこちらをチェック

監修:昭和大学 発達障害医療研究所
所長(准教授) 太田晴久先生

本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。