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特性理解と
well-being

発達障害を抱える方は、職場や家庭などで「生きづらさ」を感じている人も少なくありません。誰もが持ち合わせている「特性」と、well-being(生きやすさ)はどのように関係しているのでしょうか?

発達障害を抱える方は、職場や家庭などで「生きづらさ」を感じている人も少なくありません。誰もが持ち合わせている「特性」と、well-being(生きやすさ)はどのように関係しているのでしょうか?

Mental health & well being
-その第一歩は、自分の特性をよく知ること

「well-being」とは、肉体的、精神的そして社会的に健康で幸福な状態を表す言葉として用いられ、内閣府では「満足度」とも訳されています。
では、well-beingにつながるメンタルヘルス(心の状態)、そしてこれらと特性はどのように関係しているのでしょうか。

近年注目されつつある「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」という概念によると、誰もが脳の多様性を持っていて、この多様性が表出したものが「特性」であるとされています。

つまり、「特性」や「特性の凸凹でこぼこ・強弱」は、誰もが持ち合わせているものなのです。

ニューロダイバーシティについて
詳しくはこちら

特集 ニューロダイバーシティ
脳の多様性を考えてみよう

この特性は、わたしたちの日々の行動や発言に影響を与え、特性の凸凹でこぼこ・強弱によって、得意なこと・苦手なことが生じます。ただし、特性は目に見えません。そのため、自身の特性に気づかず過ごしていたり、気づいていたとしてもうまく受け入れることができないこともあります。

自身の特性の凸凹でこぼこに合わない環境に身を置くと、周囲とうまくコミュニケーションをとることができず、不安な気持ちになり、時には繰り返し叱責されたり、ネガティブな経験をすることがあります。

そして、そういった状態が続くと、理由がわからず対処しきれないまま自己肯定感が下がってしまい、うつ病や不安障害といったメンタルヘルスに不調を来たしてしまうこともあります。
このような特性に合わない環境で生じた「生きづらさ」は、適応障害と診断されることがあります。しかし、このような状況で生じたメンタルヘルスの不調の本質は、「発達障害の二次障害」である可能性があります。

メンタルヘルスの不調を回避するには、自身の特性への理解を深め、特性とうまく付き合っていくことが大切です、そしてそれがwell-beingにつながっていくのです。

二次障害について
もっと詳しく知りたい方はこちら

発達障害に併存しやすい
病気・症状

二次障害があると、自分の特性に気づきにくいことも

発達障害の二次障害があると、二次障害の症状として現れた目の前の困りごとへの対処に重点を置きがちです。その結果、悩みの根底にある自身の特性に気づきにくい傾向にあります。特性の気づきが遅れると、環境調整等による対処も遅れてしまい、Well-beingの実現も難しくなります。
しかし、二次障害の背景にある自身の特性に気づくことができれば、うつ状態に対するその場限りの対症療法のみならず、well-beingへの一歩を踏み出すことができるかもしれません。

<経験者の声>
発達障害と二次障害について、経験者の声を集めました

過去にADHD診断済みであったが、仕事内容が合わずうつ症状を発症したAさん

マルチタスクや注意深さを要する広報の仕事に就職したのですが、実はこれは私の特性では苦手な傾向にある仕事でした。結果、つまづくことが増え、追い詰められてしまい、うつ病を発症し、休職するに至りました。

自分の特性を認知できておらず、自分の努力不足だと考え、うつ症状を発症したBさん

社会人になってから、特に人間関係に難しさを抱え、何度かうつ症状を経験しました。仕事で急かされるとパニックになって失敗することもあり、これらが重なり、周囲からいじめやパワハラも…。感情に乏しくなり、自分を否定し、人生を悲観する日々が続きました。それでも、できないのは自分の努力不足だと思ってしまい、自分の特性だとは気づかず、どうすればいいのか長いことわかりませんでした。

ご自身の特性が気になる方はこちら 
ADHDとASDのセルフチェックが可能です

セルフチェック

いまメンタルヘルスで苦しんでいる方へ
-ご自身の特性に、一度目を向けてみませんか?

自分の特性を知って対処することで、うつ症状などといった二次障害のコントロールにつながることもあります。

<経験者の声>
発達障害への対処が二次障害のコントロールにつながったという経験者の声を集めました。

過去にADHD診断済みであったが、仕事内容が合わずうつ症状を発症したAさん

自己分析を目的に、ブログをはじめました。その結果、同じ悩みを抱えた当事者や発達障害に理解のある方と繋がることができました。
また、職業検査(GATB)や自己分析の結果、言葉を扱うことや、初対面の人と物怖じせず接し、じっくりお話を聞きながら対人関係を築くことが得意だと分かりました。現在は得意を活かした仕事をしています。
自分で自分の特性を理解することは必須だと思います。うつ発症時は、自分の「苦手」ばかりに目が向いていましたが、思い切って周りの方に「自分の長所」を聞いてみることも参考になりますし、元気が出ると思います。
うつ症状が長期間続いているなら、自分の特性を棚卸する時間を設けてみてください。

自分の特性を認知できておらず、自分の努力不足だと考え、うつ症状を発症したBさん

情報を集めたり、当事者同士の集まりに参加したことで、「特性は周囲に比べた優劣ではない、環境によっては得意として活かせることもあるし、誰かの役にも立てる」と知りました。あくまで自分の傾向であり、ありのままの自分で良いのだと理解できたことで、生きやすくなりました。
最近、勇気を出して職場にも特性について説明しました。周囲は長所も短所も受け入れてくれ、仕事の依頼方法等も工夫してくれています。周囲とコミュニケーションの工夫を共有することで、お互いにフラストレーションがたまりにくくなりました。上司はプラス面もしっかり評価してくれています。今では失敗した時、多少落ち込んでも立ち直ることができますし、自分を否定することも減り、うつ症状は生じにくくなっています。

産業医へのお悩みQ&A
(回答者:産業医科大学 医学部精神医学教室 准教授 新開 隆弘 先生)

自分が発達障害であることを職場に伝えた方がよいものでしょうか?
発達特性に対処していくためには、ご自身による取組みだけではなく、職場での理解とサポートが有効である場合も考えられます。その際には、発達障害があることを職場に開示するかどうか、家族や主治医、障害者就業・生活支援センター等に相談しながら決めていくこともできます。
職場への開示の必要性に関しては、ケースバイケースであり、最終的には自己判断をお願いしています。症状が軽度で、職場で特段の配慮が不要であれば、あえて言う必要はないでしょう。一方、通常業務に支障があり、配慮をもらわないと無理が生じ、二次性のうつ症状が生じて治療が必要になる等のケースは、職場へ告知して一定の配慮(たとえば、業務軽減や再配置、あるいは業務は変えずに、コミュニケーションの工夫や業務指示の細分化などで対応するなど)をもらう方がよい場合もあるでしょう。
もっとも、職場側の理解や受け止めは様々です。告知しても実際どこまでの配慮がもらえるかという保証はありませんし、対人関係に起因するものは調整しにくい事情もあります。職場から過不足ない配慮を引き出せればよいのですが、そう上手くいかない場合はどうするか、難しい問題です。
自身の特性を深く理解し、得意なことを活かして活躍できる環境へ転職するのも、一つの選択肢かもしれません。肩ひじを張らずにリラックスして人生を楽しめるように、自身の周りの環境を調整していく―、こういった姿勢や考え方がWell-beingに繋がるのではないでしょうか。

<産業医からのコメント
―産業医科大学 医学部精神医学教室 准教授 新開 隆弘 先生>

発達障害と二次障害について、これまで産業医の立場で経験した事例をご紹介します。

<30代男性Aさん(町役場勤務)>

Aさんは「集中力が続かずに仕事が上手くいかない、疲れやすい」と休職中に大学病院を受診し、うつ状態への薬物療法をうけました。Aさんは復職への焦りから、不十分な改善のまま復職を試みましたが、長続きせず再度休職してしまいました。産業医を通じて、職場状況を確認したところ、抑うつ症状よりも不注意や連絡ミスが目立ち、〆切や優先順位の感覚のズレが周囲との摩擦を生じさせ、環境に馴染めていない様子がうかがえました。この状況から、単純な「うつ病」ではないと考えられ、母親からもお話を伺ったところ、幼少期から集中力や注意力が乏しく、落ち着きを欠き、動き回って周囲とのトラブルを繰り返す子供時代だったことがわかりました。
すなわちAさんのうつ状態の本質は、ADHD二次障害であると考えられました。よって、机上の整理、ToDoリストの作成や優先順位付け、現実的な目標設定、都度の進捗報告と再調整などといったADHD環境調整を含めた対処法を指導していきました。結果として、無理のない復職が出来、困りごとであった不注意や集中力も改善。上司との意思疎通や相互理解も促進したようでした。以前のように悲観的にならなくなり、休日は趣味である鉄道写真の小旅行を楽しめていると笑顔を見せています。

このように、二次障害がきっかけで発達障害に気づいたり、発達障害への対処が二次障害のコントロールにつながるといったことはよく見られます。

二次障害を抱えながら無理をする状況は、well-beingとは言えないでしょう。等身大の自分を受け入れ、自分の特性・凸凹に合う環境を探してみたり、周囲と噛み合わない凸凹の折り合いをつけるため、工夫を実践してみたりすることで、みなさんが少しでも生きやすくなり、well-beingにつながることを願っています。

監修:産業医科大学 医学部精神医学教室 
准教授 新開 隆弘 先生