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発達障害 みんなのストーリー

興味のあるIT分野で、特性への理解のある職場への転職を実現
「発達障害」にとらわれすぎず、自らの人生をより良い方向へ進めていきたい

当事者インタビュー(ASD、アスペルガー症候群)
~鈴木 悠平さん(29歳・男性)~

プロフィール:

  • 年齢:29歳
  • 職業:プログラマー(障害者雇用・契約社員)
  • 特性に気づいた時期:24歳(病院受診時)
  • 病院を受診した時期:24歳
  • 診断された時期:24歳
  • 診断名:自閉スペクトラム症(ASD)

主な特性:

  • 空気が読めない
  • 物事を言葉通りに受け取る
  • 左右盲
  • 触覚過敏
  • 手先が不器用
  • 思考の切り替えが苦手
  • 表情が希薄
  • 過集中
  • 動かしたい身体の部位を目視せずに動かすのが苦手
  • マルチタスクに弱い

本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。

発達障害に気づく

身近な人から発達障害の指摘を受け、発達障害の特性と自分の個性が似ていることに気づいた

「自分には発達障害があるのではないか」と疑いを持ったのは、婚約者から指摘を受け、発達障害に関する本を渡されたことがきっかけでした。そのときは半信半疑でしたが、本に記載されていた発達障害の特性と、自分が自身の個性だと思っていたことに類似する点が多く、素直に驚きました。

人並みの人生を歩んでいると思っていたため、医師から診断されるまで発達障害があることを確信できなかった

本を読み終わったときも、自分には発達障害があると確信したわけではありませんでした。なぜなら、幼少期から学生生活・就職活動までにおいて、多少困ることはあっても特別な対処が必要となることもなく、人並みの人生を歩んでいると考えていたからです。

しかし、学生から社会人になり、親元を離れたことで大きな転機が訪れました。自分一人で生活しなければならないし、収入も確保しなければなりません。学生時代よりも自分で解決しなければならないシーンが増えたことで、困りごとへの切迫感が徐々に増していきました。

そして次第に職場になじめなくなり、仕事でつまづくことが増え、「発達障害があるのではないか」という指摘を職場の人からも受けるようになりました。そこで、周囲からの疑いにはっきりと答えを出すためにも、医療機関を受診しようと決めました。

自宅近くにある精神科のクリニックを受診し、そこで医師から発達障害と診断されたことで、自分に発達障害があることをやっと理解することができました。

発達障害を受け入れる

「発達障害だから」を免罪符にせずに、発達障害を包含したひとりの人間として、判断・行動することが大切

発達障害と診断されたことで、積もりに積もっていた悩みごとの原因が解明され、すっきりした気持ちになりました。しかし、原因が明確になったからといって、生活における課題がすべて解決したわけではありませんし、発達障害があるからといって、周囲に迷惑をかけ続けていいわけでもありません。

「発達障害だから」を免罪符にせず、その特性を踏まえて自分の行動や環境を調整していくことが重要なのだと思うようになりました。

私は、自分の中にあるさまざまな要素のうち、その一つにたまたま「発達障害」という名前が付いただけだと思うようにしています。つまり、私は「発達障害だから」できないことがあり、迷惑をかけるのは当たり前、といった「自分=発達障害」という考え方ではなく、「私はひとりの人間であり、たまたま発達障害の特性を持っているにすぎない」と考えるようにしています。

診断されたことで、「発達障害があること」を前提条件において
対処法を考えるようになり、できることが増えた

発達障害の診断を受けて良かったと思う点は、周囲と同じようにできないという悩みにぶつかったとき、「自分には発達障害がある」ということを前提条件において対処法を考えられるようになったことです。例えば仕事において、今までは「他の人と同じようにやれば自分にもできるはずだ」と考えて周囲と同じ方法で努力するものの、要求される水準を達成できず、その理由もわからないまま行き詰ってしまうことがありました。

診断されてからは、「自分には発達障害があり、他の人とは根本的に違うのだから、他の人がやっている方法では要求される水準をクリアできないのだ」と意識するようになり、自分にとってやりやすい(=自分の特性に合う)方法を検討するようにした結果、要求される水準を達成できるようになっていきました。

もし、自分に発達障害があるということをもっと早いうちに分かっていたら、相手にストレスを与えてしまったときに「発達障害」という背景を説明した上で、より良い接し方ができたかもしれません。ですから、発達障害の診断により、自分の行動・人生をより良い方向に軌道修正できる機会が増えたことはとても良いことだったと思っています。

発達障害と共に歩む

「発達障害を一要素として持つ自分」が生きやすい方法を探して、インターネットや当事者コミュニティで情報を集めた

以前の職場では、健常者と同じ働き方や成果を求められたことで、とてもつらい経験をしました。しかし、自分に発達障害があることを知ってからは、その特性に応じた生き方や職業選択をしたいと考えるようになりました。以前読んだ本で、発達障害のある人が活用できる支援制度があることを知っていたので、まずはそれらの支援制度についてインターネットで詳しく調べました。

また、同じ境遇を抱えている人の話を聞いてみたいと思い、発達障害のある方が代表を務めている、当事者同士が集まって気兼ねなく話すことができるカフェバーに足を運びました。そこでは、私と同じ特性を持った人たちと発達障害があることを前提として話したり、普段よりも深い話が聞けたり、“あるある話”に共感したりすることができました。一方で、同じ発達障害がある人同士でも、人によってそれぞれ悩みごとが異なるということに気づくきっかけにもなりました。

自分の特性に合う職場へ転職するために、障害者手帳を取得し、就労移行支援を活用

カフェバーで情報収集をするうちに、自分には発達障害に加えて、ナルコレプシー※がある可能性に気づきました。そのため、発達障害の特性やナルコレプシーの症状が出ても身の危険が生じない仕事を選ぶことに注力しました。

※ナルコレプシー:過眠症の一種で、日中に突然、強い眠気に襲われ、眠り込んでしまう病気

以前は、電気工事士として働いていたのですが、ナルコレプシーの症状が出ると仕事が進みにくくなり、心身ともに疲弊しやすい環境でした。加えて、各地の工事現場に都度派遣される仕事なので、行先ごとに勤務環境も一緒に働くメンバーも異なり、周囲から安定して合理的配慮を受けられるような状況ではありませんでした。度々変わる環境に柔軟に合わせて働くことが苦手な私は、結果として周囲の要求する水準の仕事をなかなか遂行できずに、つらい思いを抱えていました。

そのため、次の職場には、発達障害に対する理解があり、合理的配慮や支援を受けながら働けるところを選びたいと考えました。そこで、自ら障害者手帳の取得を医師に相談し、障害者雇用枠で転職することにしました。

障害者雇用や就労移行支援の存在は、前職を辞めて失業手当を申請するためにハローワークを訪れたときに知りました。当時は、失業手当と障害者手帳の取得に併せて半年程度かかったため、実際に就労移行支援を受けることができたのは、半年後の障害者手帳取得時からでした。しかし、手帳交付前でも就労支援事業所で面接を受けることが可能であったため、手帳交付前から就労の準備を始められるという柔軟な制度に助けられました。

転職が必ず正解とは限らない。自分の特性や趣味趣向に合う働き方を模索して

結果として、転職したことは私の中では正解でした。プログラマーの仕事は、発達障害やナルコレプシーの症状が出ても差し支えないことが多いので、現在は体調を崩すこともなく、常に安定した精神状態で働くことができています。

ただ、発達障害のあるすべての人に転職が必要か、あるいは障害者雇用枠で働くべきかというと、そうとも言えないと思っています。それは一口に「発達障害」といっても、個々の特性も異なれば、趣味嗜好も異なるからです。私はたまたまIT分野に興味を持ち、今の職場にも適合できたからこそ「正解だった」と言えるのだと思います。

自分に適した職業を見つけるためには、自分の特性を理解し、自分に合った環境を模索する必要があると考えています。

また、障害者雇用枠とはいっても、必要以上の配慮はもらわないようにしたいと心がけています。それは、いずれもう一度、一般雇用枠で健常者と共に働くことを決意した際に、気後れしたくないからです。将来的には、発達障害に対する支援が存在しない環境でも働けるという自信を持ちたいと思っています。

行き詰まったら、一度視野を広げてみて。
つらいときの緊急脱出方法を持ちながら、発達障害にとらわれすぎずに歩んでいきたい

発達障害そのものについて知ることも大切ですが、「それを知った上でどのように対処するか」が最も大事だと思います。もし、今いる環境がつらいと感じるのであれば、一旦視野を広げて、自分にはほかにどのような選択肢があるのかを探ってみてほしいと思います。

かつての私は、「結婚して良い生活を送るためには、何らかの資格を取得しなければならない」という狭い考えに陥り、仕事に資格の勉強にと、かなり無理をして働いていました。もしその当時の私と同じ状況の人がいたら、一度、周りを見渡してみてほしいと思います。落ち着いて考えてみると、もしかしたら周囲には相談できる人が多くいるかもしれません。それに、自分の特性を理解していれば、それを踏まえて別の対処方法が考えられるかもしれません。

また、早期に発達障害だと分かっていれば、つらくなったときに活用できる支援制度やその利用方法などを事前に確認でき、緊急脱出用の選択肢が増えるかもしれません。あまり無理しすぎず、視野を少し広げてみるだけで、心身ともに疲弊してしまうような状況は回避できるのではと思います。

そして、「発達障害」という言葉は私の「すべて」を表現する言葉ではなく、あくまでも私の「一要素」を表す言葉でしかないということを改めてみなさんにお伝えしたいと思います。発達障害があるからといって、他人に理解を押し付けたり、自分のやりたいことをあきらめたりするのではなく、自身の特性に向き合い、付き合い方を理解し、「発達障害」という診断にとらわれることなく、自分の人生のより良い方向へと歩んでいきたいと思います。

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