発達障害 みんなのストーリー

生活の中で生きづらさを感じ、様々な不安や葛藤を抱えながらも、勇気を出して受診される方の思いを大切にしたい

Drインタビュー
太田 晴久 先生(昭和大学 発達障害医療研究所 所長(准教授)​)

発達障害の診療・研究にかける思い

“人の役に立っていることを実感
できる“
医師の道へ

自分自身の幼少期を振り返ると、小学生の頃はプロ野球選手、中学生の頃は社長になりたいという漠然とした夢がありましたが、将来について具体的に考えたことはありませんでした。高校生になって医学部への進学を決めたのは、親からサラリーマン以外の仕事に就くことを勧められていたことと、医師ならば 人の役に立っていることを現場で直接感じられるのではないかという思いがあったからです。

精神科の原体験となった臨床実習での患者さんとのふれあい

医学部6年生の時、古くから単科の精神科病院であった昭和大学附属烏山病院(以下、烏山病院)で臨床実習を行いました。その間、先輩医師から「とりあえず病棟で患者さんと話をして」と言われた私は、入院中の患者さんとゆっくり話をしたりオセロを楽しんだり、患者さんと一緒に過ごす時間が多くありました。

多くの診療科がそうであるように、病気そのものや検査の数値などを見て治療していくことは医師の仕事として当然ありますが、臨床実習で患者さんとふれあった貴重な体験を通して、精神科では 患者さん自身、あるいは患者さんの生活に密接に関わりながら治療を考えていくことがいかに重要であるかを学びました。また 患者さんに寄り添い、その人全体を見ていくことに他の診療科とは異なる魅力を感じ、精神科医になることを決意しました。

成人発達障害専門外来での新たな挑戦、米国留学を経て、診療と研究の日々に

全国に先駆け、烏山病院には2013年に成人発達障害専門外来が開設され、私もこの新たな取り組みに加わる機会に恵まれました。当時は大人の発達障害を診療する医師や医療機関が限られていたため、外来診療を通して皆でいろいろと議論を重ねながら築き上げていったということがあります。

また、私はその頃から脳のMRI画像を用いた発達障害の研究も始め、その後はさらなる研究のため、 米国の自閉症の専門施設であるUC Davis MIND Instituteへ留学しました。現在、私は外来診療とともに、烏山病院内にある発達障害医療研究所で 脳画像研究のほか、発達障害に関するデイケアプログラムの開発や幅広い臨床研究に取り組んでいます。

発達障害のある方の変化を一緒に経験できる喜び

大人の発達障害は非常に新しい分野なので、様々な当事者の方と接して試行錯誤していくなかで新たな発見が多くあることに、私はやりがいを感じています。また、生まれながらの特性である発達障害の診療では当事者の方と長いお付き合いをしていくケースが多いため、 皆さんの前向きな変化を一緒に経験していけることが、医師としての大きな喜びとなっています。

例えば、発達障害のために大学生活で様々な困難を抱えていたような方が、数年後、無事に就職を果たしスーツ姿で外来を訪れた時などは、本当に嬉しく思います。発達障害があると当事者の方々はその先も生きづらいのではと悲観しがちなのですが、 特性とうまく付き合う方法を見つけて社会に適応し、自分らしく過ごしている当事者の方々のエピソードを実際の経験として紹介することで説得力が生まれると考えています。

大人の発達障害とは

発達障害があって、最初につまずきやすいのは大学生活や就職活動

成人発達障害専門外来を受診する方の年齢は幅広いのですが、大部分は18歳以上で、 平均年齢は20代後半くらいです。この理由としては、 大学生活や就職活動でうまくいかない、あるいは 働き始めて仕事上の悩みを抱えているといった方が多いことが挙げられます。

高校時代まではコミュニケーションが苦手、忘れ物が多いなど発達障害にまつわる特性があったとしても、決められた日課に沿って生活し、勉強さえできていれば大体なんとかなることが多いのです。ところが、大学生になると履修単位を自分で管理するなど、 自主性が求められる場面が増えてきます。さらに、就職活動が始まれば面接や実習など 新たなコミュニケーションの場が増えるなど、発達障害の特性上、 苦手なことや困難なことに直面するため、大学時代に最初のつまずきを経験する方が多いと言えます。

そうした現状をふまえて私は最近、大学生に対する支援に注力しており、大学の学生相談室と医療のつながりを積極的に作るように努めています。発達障害のある方が最初につまずいた時点で早めに介入し支援を継続していけば、医療を受ける機会のないままどこにも相談できず、生きづらさを抱え続けるような状況を回避することができるのではないかと考えています。

大人の発達障害で問題となるのは、診断の受け入れや二次障害

小児期に既に発達障害と診断されている方の場合は、それまでにいろいろな葛藤があったにせよ、本人もご家族も発達障害であることを受け入れ、本人は周囲からの配慮を得られているケースが多いと思います。そのため、初診時からどのような支援や治療が必要かを具体的に考えていくことができます。

一方、 大人になってから発達障害と診断される方の場合は、自分自身が発達障害であることを受け入れられずに落ち込んだり、否定してしまったりするケースが少なくありません。まずは発達障害の診断をどう受け入れるかがスタートとなり、そこからどのように支援につなぐのかを考慮し、治療を導入するまでには十分な時間と配慮を必要とします。

また、大人になってから発達障害と診断される方の場合、小児期の時点では、本人の発達障害の特性由来の生きづらさに周囲が気付けず、そのために配慮を得ることが難しく、いじめや失敗して叱責されたなどの経験が積み重なっていることがよくあります。その影響から、 大人になっても自分に対する評価が極端に低い方がいたり、うつや強い不安感、過去の嫌な体験を急に思い出して過呼吸になったりするフラッシュバックなどの「二次障害」を抱える方が多くなったりすると考えられます。

二次障害とは、発達障害を一次障害ととらえた場合、その特性をきっかけにして二次的に起こる精神症状のことです。二次障害の中では特にフラッシュバックで苦しむ方が非常に多く、ADHD(注意欠如・多動症)の場合にはアルコールなどに依存しやすい傾向もみられます。そのため、大人になって発達障害と診断される方では、 発達障害のみならず二次障害への対処が必要なケースが多いと言えます。

大人の発達障害の受診から治療まで

受診の背景にあるのは、日々の生活の中にある困りごと

大人の発達障害と診断される方の中には、二次障害を発症して受診する方もいますが、ネットなどで大人の発達障害に関する情報を入手し、「自分に当てはまっているのではないか」と思って受診する方もいます。どちらの場合も、発達障害の特性があって日々の生活の中で困りごとが多くあることに変わりはありません。だからこそ、 様々な不安や葛藤を抱えながらも、勇気を出して受診を決意されていると感じます。診察にあたって私は、 受診に至るまでのそうした切実な思いを大切に受けとめたいと考えています。

問診で幼少期の状況や現在の困りごとを確認

発達障害の診断では、幼少期の状況を確認する必要があります。そのため、初診時にはできるだけ保護者の方に同行いただくことや、母子手帳や小中学校時代の通知表を持参いただくことを受診予約の際にお願いしています。

問診の時間は人によって異なりますが、 初診時に1時間くらいかけて、幼少期の様子から現在の生活での困りごとや症状などについて丁寧にお話を聞いていきます。ただ、発達障害の特性として、特にASD(自閉スペクトラム症)の場合は自分のことを話すのが苦手な方が多いです。例えば「調子はどうですか?」と質問されるとどう答えたらよいのか分からなくなってしまうことがあるため、私は なるべく具体的な内容について質問するように心がけています。

診断の確定後は、本人やご家族と話し合い、その方に応じた治療方針を決定

発達障害は初診で診断がつく場合もありますが、診断がつかない場合は何回か通っていただき、必要に応じて心理検査を行います。診断に際しては、発達障害の受け止め方が人によって様々であることを認識した上で、どのように説明していくかを決めるようにしています。

診断の確定後は その方に応じた治療の選択肢を提示し、本人やご家族とよく話し合いながら治療方針を決めていきます。そして、医師や看護師をはじめ臨床心理士、精神保健福祉士、作業療法士などの多職種が連携しながら治療を進めていくというのが、発達障害に対する診療の大きな流れです。

大人の発達障害を取り巻く社会のあり方とは

発達障害と診断されることでサポートを受けながらも、自己実現が果たせるような社会に

大人の発達障害で受診する方の多くが抱えている悩みは、仕事がうまくいかない、職場での人間関係がうまくいかないなど、就労に関連する問題です。企業によっては発達障害のある方に配慮し、障害者雇用枠で採用するケースもありますが、そこで与えられる職務内容は本人の希望とかけ離れていたり、本人の能力を十分に発揮することができないようなものが多いという現実があります。また、そうしたことから発達障害の診断を受けたくないと考える方も少なくありません。

本来は、障害者雇用枠でなくてもその方の特性を理解した上で就労環境を提供すれば、発達障害があっても活躍が期待できるはずです。しかし、障害者雇用枠でなければ配慮できないといった極端な現状があるようにも感じます。これは企業だけでなく社会の損失でもあり、本人の幸せにもつながっていかないのではないかと思われます。

したがって、障害者雇用は今後もう少し幅を持たせて考える必要があるでしょうし、一般就労の中で発達障害に対する配慮の位置づけを高めていくことも望まれます。そして、 発達障害と診断されることで、本人がメリットと感じられるサポートを受け、自己実現を果たすことができるような社会になるとよいと思っています。

コミュニケーション能力が過度に求められている現代社会

発達障害で受診する方は対人関係に悩みを抱えていることが多いのですが、その悩みに重大な影響を与えているのがコミュニケーションの問題です。 現代社会では人に対する評価の基準としてコミュニケーション能力が過度に求められているため、コミュニケーションが苦手な場合は自己評価を下げてしまうなど、発達障害のある方にとっては生きづらい社会になっているように感じます。

しかし、コミュニケーション能力は果たしてそこまで必要とすべきなのでしょうか? たとえコミュニケーションが苦手であっても、社会や仕事に還元できることは数多くあります。コミュニケーション能力に対する世の中の価値観を変えて、多様性が認められるもっと寛容な社会になっていってほしいと思います。

日常生活の中で生きづらさを感じている方へ メッセージ

診断は将来の選択肢を増やすための方法のひとつ、気軽に受診しても大丈夫

発達障害の診断は、レッテル貼りをするためのものではありません。たとえ診断されても、それは一生つきまとうような絶対的なものではなく、そこでどうするのかは本人やご家族で考えていくことができます。また、診断を受けることが出発点となり、 困りごとへの改善策を見つけ、将来の選択肢を増やすことにもつながると思います。

そもそも発達障害という 診断名は、自分自身の特性を深く理解したり、幸せになるために必要なサポートを得るための手段として存在しています。仕事や生活の中で生きづらさを感じていて「もしかしたら発達障害かもしれない」と心配になった時には、ひとりで悩むことなく、まずは医療機関を受診してみることをお勧めします。

職場における理解とサポート 周囲の方へのメッセージ

周囲に求められるのは、「発達障害かもしれない」と悩む人の不安や葛藤を理解した上でのサポート

「もしかしたら発達障害かもしれない」と悩んでいる方が最も恐れるのは、診断された後に自分を取り巻く職場環境がどうなっていくのかということです。仕事をしていく中でなんらかのサポートを必要としながらも、「発達障害のことで周りから変な目で見られるのではないか」、「このまま出世できなかったらどうしよう」といったマイナス面を強く感じてしまう方も多いと思います。

そのため、職場の皆さんは 本人の中に不安や葛藤があるということをよく理解した上で、本人に寄り添い話し合い、もし受診を勧める場合も、 本人の気持ちや関係性に配慮する必要があります。また、発達障害の特性に合わせた配慮をしながらサポートしていくことが望まれます。

―職場における配慮の例―

  • 文書でのコミュニケーションが得意⇒口頭でなく、メールを中心とした指示にする
  • 長時間のデスクワークで注意力が散漫になりやすい⇒途中で立ち仕事を入れる
  • 集中力が途切れやすい⇒視覚に刺激が入らないようにパーテーション等で区切る
  • 聴覚過敏がある⇒仕事中でも耳栓の使用を許可する、静かな場所に席を置く

など

監修太田 晴久先生
昭和大学 発達障害医療研究所
所長(准教授)

監修 太田 晴久先生 昭和大学  発達障害医療研究所  所長(准教授)

2002年 昭和大学医学部卒業後、昭和大学附属病院、昭和大学附属烏山病院 成人発達障害専門外来などで勤務。2012年 自閉症専門施設のUC Davis MIND Instituteに留学し、脳画像研究に従事。2014年から昭和大学附属烏山病院、発達障害医療研究所にて勤務し、現在は昭和大学発達障害医療研究所 所長(准教授)。

【専門医・認定医】
精神保健指定医、日本精神神経学会 指導医・専門医、成人発達障害支援学会 評議員、日本成人期発達障害臨床医学会 評議員