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発達障害 みんなのストーリー

何度でもやり直せる社会に
―挫折しても、自分の仕事や
人生を
諦めないで―

当事者インタビュー(ADHD、ASD)
~安田 祐輔さん(30代・男性)~

プロフィール:

  • 年齢:30代
  • 職業:株式会社キズキ 代表取締役社長
  • 特性に気づいた時期:30代
  • 病院を受診した時期:30代
  • 診断された時期:30代
  • 診断名:ADHD、ASD

主な特性:

  • 聴覚過敏、感覚過敏
  • 過集中
  • 数字に強い
  • 睡眠障害
  • 持ち物の管理や整理整頓が苦手
  • 空気が読めない

本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。

発達障害に気づく

発達障害の診断を受け、当事者の目線で向き合えるように

私が発達障害という概念について知ったのは、30歳くらいの時でした。その頃はすでに起業して、高校中退・引きこもり経験者を対象とした大学受験塾(キズキ共育塾)を始めていました。私の塾には発達障害に関連した悩みを抱えている方もいたため、発達障害についてインターネットで調べているうちに、自分自身もその特性に該当していると感じ、私も発達障害なのだと気づきました。

実際、子どもの頃は多くのつらい経験をしました。しかし、その原因が発達障害だったと分かったところで、自分が苦しんできた事実は変わりません。また、大人になった今は、ある程度のことには対処できるようになっていたので、自分の特性にさほど困っていない状況でした。ですから、医療機関の受診や発達障害と診断されることへの必要性は感じていませんでしたが、自分が発達障害だと診断されれば、塾に通う当事者の方と同じ目線で向き合い、より話がしやすくなるのではと考えたのです。

そこで、医療機関で検査を受けたところ、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)があると診断されました。その時の感想は「やっぱり自分は発達障害だったんだな」という程度で、診断を受け入れることはさほど苦に感じませんでした。なぜなら、診断を受け入れることよりも、これまで経験してきた様々な苦労の方がよほど大変だったからです。

発達障害の特性のため、幼少期から抱えてきた様々な課題

私は発達障害の当事者として、幼少期から日常生活に様々な課題を抱えてきました。たとえば、いろいろな音が気になってしまう聴覚過敏、革靴やタグ付きの服が苦手な感覚過敏、考え事を始めると周りの声がまったく耳に入らなくなる過集中、そのほかにも、場の空気が読めない、忘れ物やケアレスミスが多い、整理整頓ができない、といった特性がありました。

その中でも「音」に関する聴覚過敏は、今でも最も苦手としています。花火を近くで見られない、電車や映画館で近くに座った人の物音が気になるといったことがあり、マンションを借りる時などは、周りに線路がないこと、車通りが少ないこと、壁が厚いことなど、静かな住環境であることが最重要条件になります。

発達障害の人の半分に運動障害がみられると聞いたことがあるのですが、私も幼い頃は運動が極度に苦手で、よほど練習を積まなければ人並みにできないような子どもでした。また、空気が読めないことで、学校ではいじめられることもありました。

ASDでよくみられる傾向として、「論理にフォーカスする」という点が挙げられますが、確かに私には、「事実であれば何を言ってもいいし、何を言われてもいい」という感覚があり、論理的に正しければ納得できるし、そうでなければ納得できないという部分も昔から強くありました。そのため、子どもの頃にテストの点数が良かったりすると、何も考えずクラスメイトに自慢してしまうようなところがあり、それがいじめの原因の1つになっていたと思います。

発達障害と向き合う

自分なりの対処法を見つけ、発達障害の特性を仕事で活かす

私は小学生の頃から、「自分はなぜ他の人と違うのか?」「なぜいじめられるのか?」「なぜ失敗するのか?」ということを常に考えていて、「こういう状況の時はこのような行動をする」といった、自分なりの対処法を日記に書きとめていました。この対処法をパターン化して覚えることでうまく立ち回れるようになり、徐々に生きづらさが減っていったように思います。

そして大人になってからも、発達障害にともなう特性の多くは、様々な工夫や、日々神経を使って注意を払うことで対処しています。時には空気が読めなかったり、感情が先に立ってきつい言い方になったりすることもありますが、環境調整の結果、周囲の理解も得られており仕事上でそれほど困っていることはありません。逆に私の場合は、過集中や数字に強いといったASDの特性を持っていることが、経営者の立場でビジネスを深く考える上で非常に役に立っている気がします。

「発達障害のことを周囲に伝えてよかった」と思える今がある

発達障害があることを周囲に伝えてよかったと思えるのは、「自分の生きづらさを周囲に理解してもらえた時」だと思います。私が特によかったと感じた点は、聴覚過敏に対して周囲の人に配慮してもらえるようになったことです。例えば、電車の中で子どもが泣くと私はそっと席を離れるのですが、以前であれば、「子どもの泣き声くらいで」と言われることがありました。しかし、聴覚過敏について伝えたことで、その行動を理解してもらえるようになりました。

自分に発達障害があることを周囲に伝えることができたのは、「発達障害のある自分に自信を持つことができた」からだと思います。生きづらさを感じ、自分に自信を持てなかった中高生の頃の私なら、発達障害をコンプレックスととらえて「周囲に伝えることで馬鹿にされたら嫌だ、怖い」と思ったかもしれません。しかし、大人になってある程度のことに対処できるようになり、仕事でも成果が得られ多少の自信を持つことができた私は、発達障害があると周囲に伝えることを「怖い」とは感じませんでしたし、伝えたことを後悔したこともありません。

発達障害と共に歩む

環境に「合わせる」のではなく、環境を「調整する」

会社として就労支援事業に取り組む中でよく感じることですが、発達障害のある方は周囲の環境に無理に合わせようとして、心を疲弊させてしまいがちです。しかし、自分を環境に合わせるのではなく、合わないと感じる環境をできるだけ避けるように「調整」する方が、より生きやすくなるのではないかと考えています。

特に、1日の長い時間を費やす就労環境については、自分の特性と合わないと感じる社風や職場環境を選択しないことが重要です。それはプライベートでも同じで、自分の特性と合わないと感じる人とはあまり長く一緒に過ごさないようにすることが望ましいと思っています。

私の場合は自分が設立した会社なので、幸い自分の特性に合った社風の中で働くことができています。私は眠りが浅く、ちょっとした物音でも目覚めてしまうという睡眠障害があるため、朝が苦手な私は夜の時間帯に働くことにしています。また、社内の服装も自由なので、衣類に関する感覚過敏で居心地が悪くなることもありません。

それから、私は論理的でないことが苦手なので、社員の採用面接ではあらかじめこちらで決めた行動規範に基づくカルチャーフィット(企業文化や社風との適合性)を重視し、論理的なタイプの人を採用するようにしています。このように、日々働く中でストレスを感じることなく、なるべく心を疲れさせずに生きていくために環境を自分の特性に合うように調整するようにしています。

十分な休息をとり、コンディションを整えておくことを大切に

私は普段から、「空気が読めない」発言をしないように注意しています。ただそれは、具体的にこういう場面で気を付けようと意識する方法ではなく、しっかりと睡眠をとって体力を温存しておくことで、細部に注意を向けられる頭と心の余裕をつくる、という方法です。私の場合は、疲れている時に聴覚過敏や触覚過敏などが出てイライラしてしまうことが多いので、きちんと休息をとり、日頃から心身のコンディションを整えておくことはとても大事だと思っています。

発達障害のある方を支える

「何度でもやり直せる社会」を目指し、
会社を設立

私は養育環境に恵まれず、勉強もあまりしてきませんでした。そんな中、一念発起して猛勉強を始め、20歳で大学に合格でき、人生が良い方向に進んでいくかのように思えました。ところが、大学卒業後に大企業へ入社したものの、うつ病になり4ヵ月で休職し、その後退職することになりました。

その経験から、「社会的に意義のあることをしたい」「自らの経験を生かして、かつての自分と同じように苦しむ人の力になりたい」という想いを強くしました。そこで、「何度でもやり直せる社会をつくる」というビジョンを掲げ、高校中退・引きこもり経験者を対象とした大学受験塾(キズキ共育塾)を立ち上げたのです。

現在、全国9拠点で塾を運営しているほか、全国26の自治体から委託を受け、生活困窮家庭の生活面・勉強面の支援を行う事業、そして法務省から委託を受けて少年院出院後の学習支援を行う事業も行っています。

また、就労支援事業としては、うつ病や発達障害で離職した方向けのビジネススクール「キズキビジネスカレッジ」を全国4拠点で運営しています。最近では、企業内でうまく働けない発達障害の方の支援として企業向けの研修やコンサルティングなども行っています。

一人ひとりの心に寄り添った支援を

大人も子どもも関係なく、発達障害のある方には、「適応できる環境を自らの特性に合わせ探す必要がある」という共通点があり、環境に適応できないことが原因で心を病んだり、挫折感や悩みを抱えたりする方が多くいます。ですから、私たちがすべての事業において最も大切にしているのは、「一人ひとりに寄り添った支援」です。

さらに、障害者雇用枠で発達障害のある方の就労支援を行う事業所は数多くありますが、私たちは発達障害のある方であっても、本人が望むのであれば可能な限り専門的スキルを武器に一般雇用枠でキャリアアップできるよう、全面的にサポートしていきたいと考えています。

私はいつか、「キズキがあったから社会が変わった」と言えるくらいインパクトのあることをしたいと常々考えています。今後は、当社の事業所が全国に広がり、当社を利用された方々の活躍事例や実績が積み上がっていくことで、発達障害に対する社会の見方が変わっていくことを目指しています。仕事で挫折を経験した発達障害のある方が、キャリアを完全に諦めてしまうのではなく、私たちのような企業を利用することで「もう一度チャレンジしよう」と思える社会、何度でもやり直せる社会にしたい、と考えています。

発達障害で悩んでいらっしゃる方へ

頼れる場所、相談できる場所を探し続けてほしい

発達障害の当事者として、私が困りごとへの対処法を見つけたからといって、「あなたもきっと見つけられます」と言うつもりはありません。自分なりの対処法で多少は楽になったけれども、ものすごく楽になったかというとそうではなく、「こうすれば必ずうまくいく」という方法もないと考えています。また、日々の生活や仕事をする上では、発達障害の特性を常に意識する必要があるので、やはり疲れます。

ただ、これまでに私たちが事業を通して得た経験から、「発達障害のある方にこういう形で支援していけば、ある程度うまくいく」というメソッドが少しずつ分かってきました。ですから、たとえ困難にぶつかっても自分の仕事や人生を決して諦めないでほしいと思います。

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また、これまで支援してきた多くの方を見て重要だと感じるのは、「うまくいかない時に相談できる場所があるかどうか」です。そして、たとえ支援機関に相談してうまくいかなかったとしても、「相談しても意味がない、もう無理だ」とすぐに結論を出してしまわず、頼れる支援機関が見つかるまで相談し続けてください。そうすれば、いつかはみなさんに合った相談場所が見つかると思っています。

株式会社キズキの事業について詳しくは
こちらをご覧ください

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