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発達障害 みんなのストーリー

発達障害のある方に寄り添い、
様々な機関と連携しながら
より良い支援を続けていきたい

支援者インタビュー
松田裕次郎さん/桜井弥生さん(滋賀県発達障害者支援センター 所長/副所長)

本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。

滋賀県発達障害者支援センターについて

滋賀県で早くから進められてきた発達障害者の支援体制

松田さん:滋賀県では、ほとんどの市町に発達支援センターや発達支援室(課)が設置されており、発達障害に関する身近な相談窓口として一次支援を行っています。
また、県内6つの福祉圏域に「発達障害者ケアマネジメント支援事業所」を設置し、圏域のネットワークづくりや専門的な相談を行う体制を構築してきました。
さらに、発達障害者支援の専門家として「発達障害者支援ケアマネージャー」を養成しており、地域の支援力の向上に努めています。

当センターには福祉系、教育系、心理系を専門とする10名の職員がおり、市町や福祉施設や企業などに対する専門的なコンサルテーション、前述の「発達障害者支援ケアマネージャー」をはじめとする人材育成といった業務を中心に取り組んでいます。
また、市町がペアレントトレーニングを実施できるように取り組むなど、当事者と家族のための活動にも注力しています。

一人ひとりに合った対応策を検討し、適切な関係機関との連携による支援を

桜井さん:当センターで当事者の方などから相談の電話を受けた際には、まず相談内容をお聞きするのですが、その時点でお住まいの地域に相談窓口があることをご存知でない方には、そちらもご案内するようにしています。地域の窓口で相談が困難な場合や、地域の支援機関と一緒に当センターが関わったほうが良い場合は、当センターで対応しています。

面談ではご本人の生育歴や、つまずきのきっかけになったと考えられる出来事などについてお聞きしながら、ご本人と一緒にそれまでの人生を振り返っていきます。その中で、“もしかするとご自身のこういう部分が影響してうまくいかなかったのかもしれない”と思われる部分を共有したり、得意・不得意を客観的に知るために、希望に応じて心理検査などを行ったりします。

そして、発達特性があることや、発達障害の診断歴があると分かった場合には、ご自身の特性とどのように向き合っていきたいのか、職場や周囲の人にその特性を伝えるのかどうか、困りごとに対してどのような支援が必要かなどについて、ご本人と具体的に話し合いを進めていくことになります。また、センター内のミーティングで職員がその方に合った対応策を検討していきます。

例えば就労関連で悩みを抱えている方の場合、特性の内容や診断歴も踏まえ、障害者雇用を含めた今後の働き方などに関して、ご本人と詳しく相談していきます。その上で、ハローワークや障害者就労・生活支援センター、企業、医療機関などの関係機関と連携を図りながら対応し、実際の支援につなげていくといった流れになります。

当センターが受ける相談内容としては就労関連や、家事や育児、金銭管理など日常生活に関係した様々な困りごとがあります。ただ、最近は発達障害による日常生活への影響だけでなく、社会情勢や環境の変化によって生きづらさが現れてきたことによる相談を受けることもあります。そのため、それぞれの方に必要とされる支援は多岐にわたるという難しさがあると感じています。

発達障害者支援への思い

自己理解を深めたことで、悩みの解決につながった事例

松田さん:私がまだ当センターの職員ではなかった頃の話ですが、職場で上司からいろいろと言われ、どうしたらよいのか分からないという悩みを抱えた方から相談を受けていました。私はその方のお話を聞いて、「そう言われた時、上司はきっとこう考えているだろうから、こんなふうに返してみてはいかがですか?」と、具体的な対応のしかたを面談の度に提案していました。

面談を元に、実際の職場で試行錯誤を繰り返していく中で、その方は次第にご自身の行動をどう選択していけばよいかを理解され、以前よりも上手に立ち振る舞うことができるようになっていきました。そうなるまでには様々な要素が関係していると思いますが、私の提案を毎回受け入れてくれたこと、自己理解を少しずつ深めていったことがよい結果につながったのではないかと考えています。

支援者と当事者が同じ目線で一緒に考えていくことを大切に

松田さん:支援者が当事者の方のお話をよく聞き、同じ目線で一緒に考える時間を持つことは、特に相談対応の初期の段階で非常に重要だと思います。すべての方に当てはまるわけではありませんが、つまずきの原因になっている小さなことを1つずつクリアしていくことで、次の一歩を踏み出せるのではないでしょうか。そうした点をふまえて、できるだけその方に合った対応の仕方を提案していく必要があると考えています。

桜井さん:日頃の業務の中で、私自身もそれぞれの方に合った対応の重要性を実感しています。対応の引き出しは、様々な当事者の方と出会うことで少しずつ増えていくものだと思いますし、センター内でのミーティングや研修会などで学べることも多くあります。それらをベースにしたうえで、人によって物事の捉え方や経験は異なるため、ご本人とのやり取りを通してその方に合った対応を直接探っていくことが多いように感じています。

また、当センターに来られる方の中には、それまでの相談先で想いをうまく伝えられなかったり、逆に傷つくようなことを言われたりした経験から、新たに人と関わることが怖くなってしまっている方がいらっしゃいます。そうした方の場合には、時間がかかっても細く長く関係を維持できるように、支援者側がチームで関わっていくことも重要だと考えています。

当事者の方との関わりを通して得られる経験

桜井さん:相談に来られた方はいろいろな働きかけや環境調整などによって、安心して過ごせるようになり、自分らしさを発揮できるようになることがあります。ご本人に自分が変わったという意識はないかもしれませんが、最初にお会いした時とは別人のように変わっていく方もいらっしゃいます。発達障害者支援の仕事では苦労する場面も多いですが、そうしたポジティブな変化を当事者の方と一緒に経験できることは、私にとって大きな喜びとなっています。

松田さん:私も昨年までは当事者の方の支援に直接関わってきました。最近になって10年ほど前に支援していた方から連絡を受けたのですが、聞いてみればご自身が購入を迷っている商品の相談でした。その方は私に聞けばその迷いが解決するかもしれないと思っておられたようです。その時、その方と私は、話をするだけで安心できるような信頼関係になっていたのだと分かり、私はとても嬉しく感じました。当事者の方が後で振り返った時に、「この人と出会えてよかった」と思ってもらえるような関わりを支援者として大切にしていきたいと考えています。

大人の発達障害における課題

発達障害に気づき、相談に至るまでの様々な背景

桜井さん:大人の発達障害の場合、幼少期は学校や家庭という枠組みのある中で、ある程度は適応されているように見えるのですが、大学生や社会人になって自己判断が求められる場面が増えてきた時に、不適応の状態が現れる方が多いように思います。相談に来られる方の中には、うつなどの二次障害による不調で医療機関を受診し、その後、発達障害が分かったという方が多くいらっしゃいます。また、会社の方やご家族からうながされ、自分は発達障害かもしれないということで相談に来られる方もいらっしゃいます。

それから、女性は表面的に発達障害が目立ちにくく、心身の不調に気づいても「誰にでもあることだろう」と考え、あえて相談されない状況が多いように思います。また、お子さんが診断されたことで自分も発達障害ではないかと気付き、親子での相談を希望して来られたケースもありました。そうしたことからも、発達障害に関わる悩みを抱えている女性はかなり多くいらっしゃるのではないかと思います。女性の発達障害のある方の大変さは、社会的にまだあまり理解されていないように感じています。

大人の発達障害のある方が適切な支援を受けるために

松田さん:大人になってから発達障害だと分かった方の多くは、それまでに福祉とのつながりを持っていない方がほとんどです。そのため、相談したり支援を受けたりする上でのコミュニケーションスキルが不足していて、自分が困っていること、希望することなどを相手にうまく伝えられない場面があるのではないでしょうか。実際にはなかなか言いづらい状況もあるのかもしれませんが、自分の苦手なことや助けてほしいことを上手に伝えられるようになることが、生きやすさへの第一歩ではないかと思います。

桜井さん:生きやすさという点で言えば、例えば、日本独特の察することを良しとする文化や、周りと同じであることを重視するような価値観が社会全体でもっと変わっていくことが、発達障害のある方を含め、世の中のあらゆる人にとって大切だろうと感じています。

発達障害のある方、生きづらさを感じている方へ

生きづらさを感じていたら、一人で悩まずに支援機関に相談を

松田さん:日常生活でつらい気持ちを抱えている方は、ぜひ支援機関につながっていただけたらと思います。問題になるのは“発達障害があるかどうか”ではなく、“生きづらさがある”という事実です。その生きづらさを自分だけで軽減していくことが困難な時には、支援機関で相談されることをお勧めします。

桜井さん:自分一人で悩んでいる状況を少しでも変えてみたいという気持ちから相談を希望される場合、まずは最初に連絡した時点で、支援機関が相談者の方について知りたい情報があるか、事前に準備しておくとよいものがあるか、などに関して確認されるとよいと思います。

当センターでは、発達障害かどうかが分からない段階で初めて相談に来られる方の場合、学校の通知表や連絡帳、アルバムなど幼少期の情報が分かるものがあればご持参いただくようにお願いしています。これまでの経過が分かると、お話を進めやすくなるからです。また、好きなことや趣味などについても教えていただけると、その方の強みを見つけていく上で参考になるので助かります。

松田さん:相談することに慣れていないと初めは難しいことかもしれませんが、相談される際には、いろいろな困りごとのすべてをその場で羅列するのではなく、「今回の面談ではこのことについて相談しよう」というポイントを明確にしてお話しされるとよいと思います。また、面談で話した内容は相談員にメモを残してもらい見える化しておくと、次の面談で重複することが少なくなったり、後日確認したりすることもできて便利です。そういった方法で進めていくとよいということを、相談される方にぜひ知っておいていただけたらと思います。

さらに発達障害者支援センターについて
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発達障害者支援センターについて

発達障害のある方を支える周囲の方へ

自分の価値観を押し付けず、ご本人の気持ちに寄り添って

桜井さん:発達障害のある方は、ご家族など周りの方が良かれと思って言った言葉に傷つき、苦しい思いを抱えていることが少なくありません。周りの方が正しいと思う価値観とご本人が持つ価値観は違うかもしれないということを念頭に置いた上でご本人のお話に耳を傾け、ご本人がどんなふうに感じているのかを理解していただくことが大切だと思います。

松田さん:“世の中にはいろいろな人がいて、同じことでもそれがうまくできる人とできない人がいる”ということを周りの方が理解し、不得意なところはサポートして得意なところはお任せしていくようなやり取りができていくとよいと思います。“自分にも苦手なことはあるんだから”という気持ちを持っていれば、発達障害のある方にも寛容に接することができるのではないでしょうか。また、現実的に配慮が難しいことに関しては、お互いに折り合いが付けられるようによく話し合っていただくと、楽に付き合っていけると思います。

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