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発達障害 みんなのストーリー

まずはお互いの認識がズレているところを知ることが重要。
時間をかけ、そのズレを解決しながら未来に向かって進んでいく。

配偶者(家族)・当事者の同時インタビュー(発達障害)
~亀山聡さん、ナナトエリさん(40代・男性・女性)~

亀山聡さん

  • 年齢:40代
  • 職業:漫画家

ナナトエリさん:

  • 年齢:40代
  • 職業:漫画家
  • 特性に気づいた時期:30代前半
  • 病院を受診した時期:30代後半
  • 診断された時期:30代後半
  • 診断名:発達障害

主な特性:

  • 注意力を長く継続することが苦手
  • 話し出すと止まらない
  • 思い立ったらすぐに行動する
  • 聴覚・嗅覚が過敏、特に高音や雑踏の音が苦手
  • 自分の意思と関係なく体の部位が動いてしまう
  • 算数障害や識字障害(軽度)がある

本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。

発達障害に気づく

しっかりしているという印象の反面、危なっかしさも感じた

――ナナトエリさんと初めて出会われた時、亀山さんはどのような印象を持たれましたか。

亀山:「社交的で、ものすごくしっかりしている」という印象を受けました。その時彼女は、ビジネスマナーなどに厳しい百貨店でアパレルの接客業に従事しており、僕はそれよりも少し自由な風紀の漫画業界でアシスタントをしていたので、余計そのように感じたのかもしれません。

ナナト:百貨店で働いていたころの私は、対人関係での怖さもあったせいか、しっかりしなければいけないという思いが強く、周りにいる人全員に対して気を張り無理をしていました。疲れ果てて、家に帰ったら玄関でそのまま寝てしまうこともあったほどです。私生活でも周りの人に対して同じように振る舞っていたので、彼はそのように感じたのかもしれません。

亀山:しっかりしていると思ったのと同時に、「危なっかしさ」も感じていました。人が言うことをすぐに信じてしまうところがあったので、いつも「大丈夫かな」と思っていたことを覚えています。

ナナト:確かに、当時の私は人の裏表が分からなくて、いろんな人の言うことを簡単に信じてしまう傾向がありました。そのような私を見て、彼は出会って間もないころから「大丈夫?」と声をかけてくれていました。

亀山:お互いに連絡を取り合うようになってからは、彼女の愚痴や泣き言をよく聞いていた記憶もあります。

ナナト:どのように育ったらそうなるのか分からないくらい、彼は純粋な人で(笑)。私がグチグチ、ネチネチと愚痴や失敗したことなどを話しても、興味深く聞いてくれました。時には一緒に泣いてくれたこともあります。きちんと私を受け入れてくれる人なんだ、他の人とは違うなと感じました。そこからお付き合いをするようになったのです。

亀山:今は、愚痴や泣き言をあまり聞かなくなりましたけどね。

ナナト:反すう思考は、周りの人に受け止めてもらえないから増幅するのだと思います。今は、彼にきちんと受け入れてもらえることが分かっているので、昇華するというか、問題にしていたことが私の中から消え去るからかもしれません。

言葉の捉え方や行動の意味合いに対する認識の違いが喧嘩へと発展0

――ご結婚され、お二人で過ごされる時間が増えるようになってから、何か変化は生まれたのでしょうか。

ナナト:ものすごく喧嘩するようになりました。一般の夫婦間で生じる問題が発端のこともありますが、それ以上に、お互いの言葉の捉え方や、行動の意味合いに対する認識が異なっていたのだと思います。例えば、喧嘩して私が家を飛び出したことがあるのですが、私は自閉傾向にあったので、嫌なものが目の前から消えてほしいと思いそのような行動をとりました。しかし彼は、「それはあてつけで、探してほしいから出ていったのだろう」と思ったようです。

亀山:たぶん、普通はそう解釈しますよね? その他、僕は言葉の意味をきちんと捉えて話をするタイプなので、彼女がだいたいの意味合いで言葉を使うとそれが許せないということが原因になることもありました。

ナナト:私のそういう言葉に対して彼がいちいち修正してくるので、それでイラッとして喧嘩になることがありました。だいたいで分かるでしょ、と。ただ、私には学習障害もあり、言葉の意味を間違って覚えていることもあるので、何とも言えないところですが……。

亀山:また、彼女の記憶の中で、こちらが話している文脈の途中がすっぽりと抜け落ちていることがあり、僕の言ったことを適当に聞き流しているのではないかと思うことがよくありました。まじめに話し合ってくれないのかと。

ナナト:確かに、集中力の欠如で、きちんと聞けていないことがあるのも事実です。

亀山:そのようなことが続いて、週に2、3回は大喧嘩。そのたびに話し合っても、彼女には改善してくれる気配が感じられず、結構、精神的にまいってしまい、へこむことがありました。お互いがボロボロになるぐらいまで話し合っているのに、なぜ歩み寄ることができないのだろうかと、先々に対して不安が募りました。

ナナト:その時のことはよく覚えていないのですが、喧嘩していたことが自分の中で響いていなかったというか、自我がなかったというか、あまり何とも感じていませんでした。自分に対して無自覚に生きていたのだと思います。

亀山:そこである時、「話に耳を傾ける気がなく、僕の考えなどはどうでもいいと思っているのか」と思い切って彼女に伝えました。

ナナト:そう言われても、本当に何も記憶がなかったので、私は都合よく事実を歪めるような人間なのかと困惑しました。そして病院で様々な検査をしてもらい、自分が発達障害であることを知ったのです。結婚してから、1年ほど経った時のことです。

発達障害を受け入れる

全てを発達障害のせいにしたことで、二人のバランス関係が崩れた

――ご自身が発達障害であることを、亀山さんにはどのように伝えられたのですか。

ナナト:申し訳ないという気持ちで、SNSを使い伝えました。「こんな私と結婚させてしまいすみません」という思いでした。ただ彼は、ものすごく笑顔のスタンプを返してくれて、嬉しく思ったことを覚えています。やさしい人だなと。

亀山:返信したことは今でも覚えています。発達障害であることが分かったことで、何か対処法が見つかるのではないかと考え、「よかった」と思ったのです。これで、今までのわだかまりなどを整理できそうだと感じたのかもしれません。それで、彼女を落ち込ませないために元気なスタンプを送りました。

ナナト:そのあと彼は、本を読むなどきちんと発達障害について理解しようとしてくれ、ここでも彼の優しさを感じました。しかし、彼は情報を得すぎてしまったのか、私のあれもこれもが発達障害によるものだと思い込むことで、私は何もできない人間だと見下すようになり、二人のバランス関係が崩れてしまいました。この時期はとてもつらく、私なんか存在しないほうがいいのではないかと思ったぐらいです。

自分にもダメなところはあると認識してから向き合い方が変わった

亀山:彼女が少し変わった行動をとったら、「これも発達障害の特性かもしれない」と、無理やり結び付けていたのかもしれません。喧嘩した時でも、発達障害の彼女が悪いとつい無意識で思っていました。たぶんそうすることで、自分を正当化していたのだと思います。彼女の担当医からも、二人のバランス関係が悪いことの原因が僕にあったことを指摘されましたが、あまりピンときていませんでした。

ナナト:一方私は、彼が寝不足になると不機嫌になることがあったので、私が寝返りをうって起こしてしまわないようにと、ガチガチになって朝まで過ごすなど、かなり縮こまった暮らしをしていました。こんな生活が1年ほど続いたと記憶しています。そしてこのような思いを私がしていた時に、彼の大失態が発覚したのです。

亀山:当時、身内の不幸や仕事関係で極度のストレスを抱えていて、それから逃れるためにゲームに依存し、大金を浪費していることが彼女にバレてしまいました。彼女に対して見下すような態度をとっていたのも、相手を見下すことで自分を落ち着かせ、ストレスを発散しようとしていたからだと思います。その後、ゲーム行動症(ゲーム障害、ゲーム依存症)の可能性があると診断され、今までのことを反省して改善しようと自分自身を振り返った時に、客観的に見て、僕にも悪いところがたくさんあることに初めて気が付きました。彼女にしてもなりたくて発達障害になったわけではありません。僕と彼女はお互い様だと思うようになり、それから発達障害に対する考え方や向き合い方が変わっていきました。

発達障害と共に歩む

オリジナルな家庭の形を二人でつくり上げる

――お互い様だと思えるようになってから、どのように向き合い方を変えていかれたのですか。

亀山:時間をかけ、一つひとつの問題を解決しながら前に進んでいくようにしました。例えば、どちらも我慢しないで、思ったことを正直に言ってみる。最後は折りあいをつけて、落としどころを二人で話し合いながら調整していくみたないな感じです。もちろん、発達障害の特性の部分は特性として受け入れることが前提となります。ただ、そうは言ってもやはり納得できないというか、腹落ちしないことが結構ありました。

ナナト:二人だけで話していても前に進まなくなることは当然ありますよね。そのような時、私が二人で話し合いへこんでしまったことをふとSNSでつぶやいたことがありました。もちろん彼を責めたり、悪口を言ったりするものではありません。

亀山:公に文字でさらされると、意識は変わるものだということをこの時よく理解しました。たまたまかもしれませんが、客観的に文字で見ることで、僕も悪かったのかもしれないと反省し、考え方を変えることができました。

ナナト:文字で見たら分かるとか、第三者から言われたら心に響くというのはよくあることだと思います。SNSでつぶやく以外にも、信頼できる友人や医師などに話したことが、巡り巡って相手の耳に届くことがあるので、二人の話し合いがなかなか進まないような時には、伝える手段を変えてみるということも一つの改善策かもしれません。

亀山:最近はあまり喧嘩をしなくなったのですが、いったん始まるとヒートアップして大喧嘩になることがあります。そういう時、我が家では図解するようにしています。

ナナト:以前から行っている方法なのですが、「元々はあれとこれが課題で、今はこうなっているのが問題だ」など、そもそも論を図解するのです。そうしているうちに二人で笑ってしまい、喧嘩が終わってしまうことも時にはあります。

亀山:図解すると、お互いすれ違っている原因が分かるので、相互理解を深める一つのいい方法だと思います。ヒートアップしている時は、頭に血が上っているので、それも落ち着きますし。

ナナト:このようなことを繰り返しながら、相互間でズレているところを知り、それを解決しながら前に進んでいくようにしました。お互いの取扱説明書をつくっていくような感じかもしれません。一般家庭では問題とされることでも、「私たちが気にならなければそれでいい」というのが大事で、オリジナルな家庭の形を二人でつくり上げていっています。

時間はかかるが、必ずお互いの理解を深められる

――夫婦以外の一般の方たちは、どのような認識が必要だとお思いですか。

ナナト:ニューロダイバーシティという考え方に基づけば、定型発達者と発達障害者の立場は対等なはずです。ただ、そう思ってくれる方ばかりではないのが現実の社会で、私もこれまでつらい目にあってきました。発達障害とは、能力(特性)のバラつきで、私の場合であれば、人の顔色をみる能力がある一方、言語化する能力が低かったり、集中力が欠如したりしていて、それによって性格が左右されているところがあるのです。各自で異なるそのバラつきの形さえ分かれば、発達障害は向き合いやすい障害だと思っています。周りの方もそのことを正しく知ることができれば、お互いに理解することができ、発達障害のある人に悪意などはないことが分かるはずです。たとえ衝動性が強く怒りやすい人がいたとしても、きちんと向き合えば何を言えば怒るのかなど分かってきますし、本人にも「あなた怒っているよ」と伝えれば、怒らなくなる人もいるのです。周りの方が理解するだけでなく、発達障害の人も自分のことを理解する必要があり、それはお互い様だと思います。

亀山:僕もその通りだと思います。彼女と喧嘩したことを振り返ってみると、発達障害による特性に対して嫌だと思うことが多々ありました。ただ、以前は嫌だと思ったことが、今は何とも思わないことのほうが多いのも事実です。短い期間ではすぐに向き合い方を変えることはできないかもしれませんが、半年、1年というサイクルであれば可能であることを実感しています。長期的に見たら、解決していける問題も多いはずです。発達障害に対する正しい知識を身につけ、自分自身の特性と向き合いながら、二人で話し合いをして相互理解を深めて進んでいけば、意外と大丈夫だなと思えてきますので、もしそのような関係性に悩まれている方がいれば、希望を捨てないでほしいと思います。

ナナト:実は最近、行きつくところは結局、お互いの好みの問題なのではないかと思い始めています。

――お二人の話で、多くの方が勇気づけられたのではないかと思います。本日はありがとうございました。

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