発達障害 みんなのストーリー

自己理解が進んだことで周囲とのバランスがとれるようになった。周囲にも発達障害の特性を理解してもらい、互いに良い関係を築きたい。

当事者インタビュー(発達障害)
~ナナトエリさん(40代・女性)~
(亀山 聡さんの妻)

プロフィール:

  • 年齢:40代
  • 職業:漫画家
  • 特性に気づいた時期:30代前半
  • 病院を受診した時期:30代後半
  • 診断された時期:30代後半
  • 診断名:発達障害

主な特性:

  • 注意力を長く継続することが苦手
  • 人に会うと話しかけたくなる
  • 思い立ったらすぐに行動する
  • 聴覚・嗅覚が過敏、特に高音や雑踏の音が苦手
  • 自分の意思と関係なく体の部位が動いてしまう
  • 算数障害や識字障害(軽度)がある

本文中に使用されている専門用語(アンダーラインのついたもの)については発達障害関連ワード集に詳しく説明があります。

発達障害に気づく

私の頑張りが足りないのだと、ひたすら自分を責めていた

小学生のころから高校生ぐらいに至るまで、ずっといじめられっ子でした。青く霞みがかった世界を一人で歩くという夢をよく見ていた記憶はあるのですが、それ以外はあまり覚えていません。周りにいた人たちの顔も認識することができず、自分の親ともうまく関係が築けずに距離があったように感じています。

こんなにたくさん人がいるなかで一人きりになってしまうのは、きっと私だけが悪い、私の頑張りが足りないのだと、ひたすら自分を責めていました。

社会人になってからは、仕事も人間関係も自分では精一杯頑張っているはずなのに、どうしても1年以上同じところに勤務することができず、そこでも自分の頑張りが足りないからだと、ずっと思い続けていました。

ただ働くようになってからは、人の顔色を見ることができるという能力が、他の人たちよりも秀でていることが分かりました。アパレル業界で接客をする期間が長かったのですが、お客様が来店した時に、何をお望みなのかがすぐに分かり、どのようなお力添えが必要か察することができたのです。

一方私には、うかつなことを口にしてしまうという特性があり、何か変なことを自分が言ってしまったと、相手の顔色を見て察することはできるのですが、その対処の仕方が全く分からず、職場仲間との関係をぎくしゃくさせてしまうことがありました。

「衝動性」という特性のおかげで漫画家デビューを果たす

接客業に従事しながらも、子どものころからなりたかった漫画家の夢を捨てきれずにいて、自分で描いた漫画を何度か投稿していました。しかし、地方にいては編集者の方と会うことは不可能ですし、電話で話すだけでは顔色を見ることができません。本気で漫画家を目指すには地方にいてはらちが明かない、と思い立ち、すぐ上京しました。今思えば、発達障害の「衝動性」という特性が出ていたのだと思いますが、そのおかげで、広告漫画や原作付きの漫画ではありましたが、東京に来てから2年ほどでデビューするなど、夢を実現することができました。

私の夫である亀山聡とは上京してから出会い、友達の期間が3年、交際していた期間が1年と、知り合ってから4年後に結婚しました。その時私は、度重なる環境の変化と、漫画家業とアルバイトによる過労で、「軽症のうつ病」と診断され通院していたのですが、なかなか治らなかったため、自分にはパーソナリティ障害があるのではないかと思い込んでいました。パーソナリティ障害のことを調べると、自己中心的などと書かれていたので、ここでも自分を責めてしまい、私は性格が歪んだ人間なのだというような考え方をしていた記憶があります。

発達障害を受け入れる

「生きづらい」のは自分が悪いのではなく、発達障害の特性によるものだと知り安心した

私も夫もお互いに理屈っぽいところがあるためか、結婚当初から夫婦喧嘩をよくしていて、ある時彼から、「何回も自分の考えを話しているのに、なんで聞いてくれないの? 僕の考えなどはどうでもいいと思っているのか」と、問いただされたことがありました。

「何回も話しているのに、聞いてくれていない」と言われても、本当に何も記憶がない。私は都合よく事実を歪めるような人間なのかと困惑しました。しかし、「なんで聞いてないと言われるのだろう」という疑問が芽生え、「聞いていないということが、何かの精神疾患に関係しているのではないか」と、インターネットで調べてみたのです。その時、発達障害というキーワードを見付け、早速、通院していた病院で様々な検査をしてもらいました。結婚してから、1年ほど経った時のことです。

検査の結果、主治医からは発達障害であると診断されました。私も発達障害について調べ、少なくとも自分は悪意に満ちた人間ではないことを知り、自分の頑張りが足りないとか、性格が歪んでいるといったわけではなく、単なる特性の問題だということが分かって、かなり気が楽になり、安心しました。そして、少し自分を許せるような気持ちになったのです。

ただ私自身は、集中力が続かないとか、多弁であるといったことには該当しますが、片付けができないとか、遅刻するといった特性はなかったため、発達障害であるといっても、全部の特性が当てはまるわけではないことも分かりました。

不安に陥り1年間引きこもる

発達障害と診断され、まず夫にその報告をしました。「やっぱり発達障害だった。ごめん、迷惑かけるね」といった内容をSNSで伝えたのです。すると、ものすごい笑顔のスタンプが返ってきました。「別に、たいしたことではないし、気にしない。暗くなって落ち込んでいても仕方がないので、一緒に頑張っていこう」という意味だったようで、その時、この人はいい人だなと、心から思ったことを覚えています。

発達障害であると診断されたことで安心した反面、やっぱり障害があったのだと、そこからはどんどん不安になっていき、私は何の仕事もできないのではないか、生まれてきたことが許せない、などと思い始めてしまいました。

そこから1年ほど家に引きこもってしまったようで、そのころの記憶は、ほぼありません。夫から話を聞いたところによると、ずっと寝たきりで夕方の4時ぐらいに起きてきて、リビングの同じ場所に座り、コッペパンしか食べない状況だったそうです。「大うつ病」になっていたようで、それだけ、障害があったことに対してショックが大きかったのだと思います。

発達障害と共に歩む

初の原作漫画が掲載され仕事への活力が生まれる

引きこもってから1年ほどが経ち、体調が少しずつよくなっていったころ、以前よりお世話になっていた漫画編集者の方から声を掛けていただき、まずはコミック雑誌の読み切りから描いてみないかと言われました。ただ、私は漫画を描くことが怖くて、一人でやる自信がなかったため、それまでずっと自分を支えてくれていた夫との連名であればできますと伝えたのです。その読み切り漫画が私たち二人でのデビュー作となり、自分たちが原作した初めての作品になりました。

自分たちの原作漫画がコミック雑誌に掲載されるのは初めての経験で、これまで数々の失敗を重ね、幾度となくつらい経験をしてきた自分にとって、ものすごく自信になりました。障害があると知ってから、何の仕事をしていいか分からなくなっていたのですが、やろうと思えばできるかもしれないと活力が生まれてきたのです。

漫画の制作を通じて自己理解が進み、周囲とのバランス感覚が身についた

私はこれまで、何で自分がこんなにしゃべってしまうのか、どうして体が勝手に動いてしまうのかということを全く考えたことがなかったのですが、原作漫画が掲載されてからは、発達障害に対する興味が湧くとともに、初めて自分自身に興味を持つことができるようになりました。自分を自覚したら、ストーリーが描けるようになり、自分の軸ができることで、ようやく周りの景色が見えるようになったのです。

これまでの私は、自分自身が正しく見えていなかったため、自分がどんな人間なのかがよく分からず、ぼんやりと生きてしまっていました。自分の輪郭のようなものがはっきりすると、人との距離感なども分かり、人のこともある程度正しく見えるようになっていったのかもしれません。

このような変化が生じることで、以前であれば、何か起こったら自分だけが悪いと思っていたのですが、自分の悪い部分と相手の悪い部分の両方を認識することができるようになり、過度に萎縮することがなくなりました。メタ認知することができるようになり、自分と相手との間を客観的に捉えるバランス感覚が身についたのだと思います。

※自分自身のことを客観的に見て認識すること

夫婦で衝突しても改善方法を二人で決め前に進む

メタ認知ができるようになると、夫婦間で衝突しても、具体的な改善方法を二人で決めて、一歩先へと進めるようになりました。例えば、夫は普通の人よりも自分の時間を少し多くほしがるタイプです。一方私は、発達障害の特性で、相手に話しかけることを自分の意思で止めることができず、相手の時間を奪ってしまうことがあります。そこで二人で話し合い、会って話をする時間を限定することにしました。私はもう少し話をしたいと思っているのですが、結果としては、以前より衝突する回数が大幅に減ったように感じています。

一方、友人や知人に対しては、発達障害であることを隠さずに伝え、多弁だろうが多動だろうが、夫と同じように、その時の私を好きでいてくれる人と付き合うようにしました。そのような人としか長くは付き合えないと思い、等身大の私を出すことができる相手としか接しないようにしたのです。

発達障害の特性への理解が、誤解の少ない社会を築く

現在でも、人に対する恐怖心が拭い去れていないのは事実で、仕事相手とのやりとりは、基本的には夫にしてもらっています。発達障害に対する特性を理解されていない方たちが投げかけてくる言葉には結構怖さを感じており、それらにはあまり触れたくないと思っています。

確かに、発達障害の特性によって失敗したり、失言したりすることがあれば、当事者の周りの人たちが迷惑だと感じても仕方がないと思います。ただ、発達障害の特性による言動に悪意はなく、相手をおとしめようとするものではありません。裏表はなく、いじわるをするようなものではないことを、当事者の周りの方たちに、まず知っていただければと考えています。

当事者の周りの方たちに、発達障害の特性を広く理解していただくことができれば、両者にとって誤解が少なく、お互いにいい関係が築ける社会になるのではないでしょうか。そのためにも、漫画という、受け取る相手にとって重くならない明るい世界観のなかで、発達障害の本質を、これからも伝えていければと思っています。